【叫び】  side:恭介

午前8時。

うるさい。

耳元の目覚し時計が盛大に音を立てた。

無理やり夢から引き剥がされて、無条件に手が伸びて黙らせる。

とりあえず黙らせて、やっと思考が働いてきた。

今日は休みだろ。

何だってこんなに早く目覚ましが鳴るんだよ。

・・・・・海か。

面倒くさい。

が、仕方が無い。

布団から這い出て、まだのんきに眠ってやがる公佳の元へ行く。

「おい。公佳」

・・・動かない。

「おい。公佳。起きろ」

揺すってみてもまだ動かないし・・・。

足で蹴ってやれ。・・・軽くだけど。

やっと身動ぎした。と、思ったら。

「やだ〜。まだ寝るー」

・・・あほらし。

もう一眠りしよ。

 

午前11時

「あ〜〜〜!海!やだっ。もうこんな時間!?」

叫び声にたたき起こされた。

「起きて、恭介!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい。

 

 

「寒っみ〜〜〜〜」

「きっれ〜〜〜〜」

車から出て、最初の一言はこれだった。

こんなに寒いのによく走れるよな〜。

もう波際まで走ってるよ。

若いよなぁ。

「あーーーー!!!!!」

何事だ!?

「バカヤロー!!!」

「何やってんだ?」

「海に来てやる事といったら、これでしょ」

・・・そうか?違うと思うぞ。

「恭介も。ほら」

「誰がやるか」

あたりまえだろ。

そんな明らかに不機嫌な顔すんなよ。

「恭介のバカヤロー」

はいはい。

「子供っ。面倒くさがりっ。おやじっ」

言ってること矛盾してるぞ。

「片付けないし、わがままだし」

それはお前だろ。

「変人だし」

なんでこんなに言われなきゃならないんだ?

・・・だんだんムカムカしてきた。

「子供はどっちだ!わがままっ。かわいくねー」

言えば、公佳も言い返す。そしてまた、俺が言い返す。

端から見ればかなり変な二人なんだろうな。

気にもならないけど。まあそれに冬の海だから、人もいないのだけど。

それからしばらく二人して海に向かって叫ぶ。

お互いの愚痴から始まり、会社や家族の不満だとか。

最後はお互いが何に対して叫んでいるのかさえ分からない状態。

「おれ、もう、だめ。声、でねぇ」

散々叫んで、息を切らして砂浜にもどり、膝を付いた。

と公佳も隣に同じように座る。

「私も、もう、無理」

「「・・・・」」

間があって、二人で笑った。

何が楽しいのかなんて、わからないけど。

それから落ち着くまで寄り添って座った。

こいつも結構不満が溜まってたんだな。

知らなかった。

もう、夕日が沈みかけてるし。

しばらくして、だんだん落ち着いてきた。

「寒いな」

「・・・うん」

座り込んで、動かずに、冷たい風に晒されて。

体温が奪われていく。

けれど、

「暖かいな」

「・・・うん」

隣に座る公佳の温もりが伝わってくる。

そのまましばらく動かずに二人して座る。

「そろそろ、帰るか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」

 

「で、どっちだ?」

車に乗り込み、湧いた疑問を投げかけた。

「心が先か、物が先か?」

しまった。また主語が抜けてた。

よく分かったな。

関心しつつ、頷く。

「そりゃあもちろん、ブツよ。ブツ」

・・・やっぱりな。

できるなら、これからは思いつきだけで行動するのはやめてもらいたいものだ。

 

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