【叫び】  side:公佳

 

午前11時

うとうとと、目が覚めて時計を見て驚いた。

「あ〜〜〜!海!やだっ。もうこんな時間!?」

8時って言ったのに!!

「起きて、恭介!」

無理やり起こしたら、思いっきりあきれた顔された。

     ・・なによ?

「俺は、8時に起こしたんだぞ」

覚えてないもん。そんなこと。

「とにかく!行こ!今から。ね?早く!」

やばい。行く気を完全に無くしてるよ。

なんとか用意させて、無理やり車に押し込んだ。

 

 

「寒っみ〜〜〜〜」

「きっれ〜〜〜〜」

車から出て、最初の一言はこれだった。

初めて来る、冬の海。

夏でなくても全然綺麗。

来て良かった。

そして、私はかねてやってみたかった事をやってみる。

「あーーーー!!!!!」

叫ぶ。

「バカヤロー!!!」

あ。思いのほか気持ちいい。

「何やってんだ?」

「海に来てやる事といったら、これでしょ」

漫画とかでよくあるじゃん?・・・ないか。

「恭介も。ほら」

「誰がやるか」

楽しいのに。

でも、恭介の場合、文句言ってたら乗ってきそう。

「恭介のバカヤロー」

海に向かって叫んでも、波が音を消し去る。

「子供っ。面倒くさがりっ。おやじっ」

何でもいいから、適当に言ってみる。

叫んでみる。

「片付けないし、わがままだし」

えっと、他には、

「変人だし」

うん。変人。自分で言って笑える。

「子供はどっちだ!わがままっ。かわいくねー」

やっぱり乗ってきた。

楽しい。・・・でも、むかつく。

私が言えば、恭介も言い返す。そしてまた、私が言い返す。連続。

そのうちネタが尽きてきて、それでも止まらなくて、対象が移行する。

本当の対象に。

恭介に対しての不満なんてそんなにない。

恭介も同じようで、すぐに対象が移った。

でも、耳の端に入れながら、そのまま流した。

多分、お互いに。

だって、知る必要ないもの。

私達は、私達の知っている事で十分。

・・・余裕なかっただけかも知れないけど。

「おれ、もう、だめ。声、でねぇ」

散々叫んで息を切らし、恭介が砂浜にもどった。

私も同じようにして隣に座った。

「私も、もう、無理」

それから落ち着くまで寄り添って座った。

時間が止まってるみたい。

目の前ではもう、夕日が沈みかけてる。

綺麗。さっきまで、あんなに荒れていたように見えた波も、

心なしか落ち着いたように見えた。

二人して黙って、時が過ぎるのを待つ。

しばらくして、恭介が言った。

「寒いな」

確かに、寒い。

「・・・うん」

急に感覚が戻ったみたいに寒く感じた。

でも、

「暖かいな」

同じ事を、思った。

「・・・うん」

隣に座る恭介の温もりが伝わってくる。

体の半分が暖かい。そんなにくっついているわけではないけれど。

そのまましばらく動かずに二人して座る。

「そろそろ、帰るか」

動きたく無いと思った。このままがいいな。と思った。

でも、頷いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」

 

「で、どっちだ?」

相変わらず、唐突。

「心が先か、物が先か?」

きっと、聞くならこのこと。

恭介が頷く。

「そりゃあもちろん、ブツよ。ブツ」

グッズを見つけて海に行きたいと思った。

だけど、本当に行こうと思ってはいなかった。

でも、きっと来てみたかったんだ。恭介と。

 

 

 




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