【駆け引き】side:恭介
 

 

 

「完璧」

我ながら上出来だ。

思わず顔がにやける。

楽しい気分のまま、後ろ手に扉を閉めた。




【駆け引き】  side:恭介

 


電気がついている。と、言うことは、今日も来てるのか・・・。

いつもの癖で会社からの帰り道、つい自分の部屋の明かりを確かめてしまう。

公佳も別に、毎日来てるわけでもないしな。

来ない日のほうが少ないけど・・・。それだって不定期だし。

「ただいま」

「あ。おかえり〜」

ドアを開けたら、トレーナーにジャージ姿の、なんとも色気の無い公佳が

テレビに大爆笑しながら迎えてくれた。

・・・笑いすぎだろ。いくらなんでも。

「それ、面白いのか?」

テレビに映っているのは今人気のバラエティー番組。

「ん〜、ううん。別に」

じゃあ何で笑ってるんだよ。・・・相変わらず、公佳は謎だ。

「恭介、ご飯出来てるけど食べる?」

「おう。食べる食べる」

「じゃ、用意するね」

さっきの言葉を肯定するかのように、テレビをなんの未練もなく切りながら飯の用意をし始める。

よくできるよなと毎回思う。

俺にはそんなに早く切り替えはできねーよ。

思いながら、用意が整うまでに着替える。

着替え終わるころには飯が机の上に並んでる。

いつもわるいなと思うけど、この瞬間ばかりは公佳に感謝。

おっ。うまそ〜。

「いただきます」

「召し上がれ」

食べ始め、公佳も向かい側の席に座って食べ始める。

ん?なんだよ。・・・見てくるなよ。

「ねえ、恭介、明日休みだよね?」

今日は金曜日。明日は土曜日。ってことは明日は休みだな。

「そうだけど?」

「じゃーさ、」

嫌〜な予感・・・。

「嫌だぞ」

「まだ何も言ってないんですけど・・・」

「どうせ買い物に引っ張られるんだろ?そんなのごめんだ」

「ちがうわよ。失礼な」

前の休みはそれでつぶされた覚えがあるんですけど・・・。

前回は公佳に言い負かされ、結局買い物に連れまわされたし。

今度ばかりは負けるわけには行かねぇ。

「・・・じゃあ、何だよ」

そうあからさまに不機嫌な顔されたんじゃ、聞かないわけには行かないだろ。

「海、行こ」

は?

「・・・ますます嫌だ」

今は冬だぞ!?何考えてるんだ?

「何で〜。いいじゃん!行こうよ!海!」

休みってのは、休みためにたるんだ。わざわざそんな寒いところに行ってたまるか!

「お前、一緒に行ってくれる相手もいないのか?」

そういや、一度もそんな事聞いたことなかったな。

いるわけないか。こんなにうち来るくらいだし。

「彼氏?いるよ」

・・・いたのか!?

「でも、休みの日にまでわざわざ会いたくないし」

は?

「一緒に行ったって、何にも楽しくないし」

は?

「会いたくないって・・・。彼氏なんだろ?」

「だって、別に好きじゃないし。だいたい、あいつだって浮気してるし。いいんじゃない?」

好きだから付き合うんじゃないのか!?

浮気してると知ってて黙認してるのか!?

・・・ついていけない。

っと、主題はここじゃなかった。

「とにかく、絶対に却下!ご馳走様。・・・俺、風呂入ってくるわ。」

「ど〜ぞ」

今日はえらくあっさり引き下がるな・・・。

とりあえず、勝った。・・・んだよな?

 

洗面所で服を脱ぎ、風呂場の戸を開けた瞬間、俺はこけそうになった。

否、実際、少しすべった。

「・・・なんだこれは」

あいつはガキか?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

仕方が無い。ため息ひとつ落として、ドアノブに手をかける俺。甘いな〜。

「明日、8時起床」

悔しいから、公佳にとっては早めの時間に設定してやる。

「イエス・サー」

・・・動じてない。

負けた。完全に負けました。

やっぱり俺は公佳にはかなわないらしい。