【本心】  side:三波 由紀

 

「・・・ふられた」

今まで一度だって泊まらせてくれなかった遼哉の部屋に呼ばれて、

喜んで駆けつけて、なんでこんな事を聞かされなきゃならないのか。

「オレ、今までいろんな子に「好きだ」って言ってきたけど

公佳には1度も言ったことなかった」

・・・・・・・どうゆうこと。

それに、なによりもうじうじうじうじと、さっきからうるさい。

いいかげん、キレてもいいと思う。

「なんで私にそんなこと言うの!?私を何だと思ってんのよ!」

私だって、遼哉を狙ったきっかけは実を言えば気持ちより先にかっこよさだとか

一種のブランドやプライドみたいなもので、落としてやろうってものだったけど、

だからってこんな扱いは、ない。

侮辱してる。

イライラする。

「好きだ」

カチンと頭の中で何かが鳴った気がした。

「それって」

工藤公佳は特別で、私はその他の女と一緒の扱いって事じゃない。

余計、侮辱だ。

なのに、

「これは今までのとはちがう」

きっぱりと、いつになく真剣な顔で言いやがった。

何それ。何その表情。そんなの、知らない。

そんなの、ずるい。

・・・ずるいと思う。

沈黙が一瞬だけ横切って、改めて遼哉の顔を見て思った。

表情に出したわけでも態度に出したわけでもないけれど

この人は全身で何かを訴えかけているんだと思った。

そうしたら急に冷静になれた。あくまでも、さっきよりは。

「知ってる?私、負けず嫌いなのよ」

「知ってるよ」

「・・・だから、あんな、工藤公佳になんて負けないわ」

あいつからの挑戦状、受けて立とうじゃないの。

これはあいつからの挑戦状。

じゃなきゃ遼哉はこんなにすぐには私の元に来ない。

ここで遼哉を捨てたら負けになる。

負けるのは嫌い。

だから、あいつが負けを認めるくらい仲良くなってやる。

私には見えない、二人に共通するものから引っ張り出してやろうじゃないの。

・・・そうして、遼哉は幸せになって、開放されて?

ふと沸いた、自分にも聞こえないほどの小さな疑問の声。

じゃあ、工藤公佳はどうなるの?



教室前の廊下であいつがいた。

すれ違いざまに言ってやる。

「私、あんたになんか負けないから」

振り向いて、一言。

「頑張ってね」

それ、何かむかつくのよね。

「私、あなた、嫌いよ。・・・でも、応援はするわ」

不思議そうにこちらを見た。

「じゃないと、遼哉が幸せになれないから」

余裕の笑みを浮かべる。どちらも。

「・・・私も負けないから」

その目には静かな意志があった。

それを見て少し安心して、余裕を持って皮肉で言ってやる。

「頑張って」

悔しそうな、嬉しそうな複雑な顔をして、工藤公佳は去っていった。



あの子も幸せになればいいと思った。

知ったことじゃないけど、私の知らないところで幸せになればいいと思った。


HOME BACK side:松崎 遼哉