【本心】  side:松崎 遼哉

 

「・・・ふられた」

それは納得のいく事実で、いつかは訪れるだろうと予感していたものだった。

・・・だけど、

公佳の前では平気だったものが、いなくなって急に空虚な気持ちになって

由紀を呼び寄せた。

目の前には由紀がいる。

それでも思い返してしまう。



「ねえ。別れよう」

唐突に、その言葉は公佳の口から出てきた。

「どうしたんだよ、いきなり」

思い返してみても、きっかけとなる要因は会話の流れからは見当たらなかった。

本当に唐突だった。

唐突だけど、なんとなく予想していた気もする。

むしろ、言った本人の方がどこか焦ってる。

「だって、このままでいても何にも変われないよ。幸せにだって、なれないよ」

・・・・・心の奥底にある、触れないでいた事実。

知ってるよ。そんなこと。

常にある空虚感はどうしたって解消できないことは知っていた。

「ねえ、本当は遼哉だって気付いてるんでしょ?私達は傷を舐め合ってるだけなんだって」

「・・・・・」

一生消えないんじゃない。

公佳とじゃあ消えない。

だからといって、他の子じゃあもっと消えない。

「そろそろ、逃げることから抜け出さなきゃ」

逃げる。

公佳と居る事はマイナスにならないけれど、大きなプラスにもならない。

その安全地帯に逃げ込んでいただけだ。

知らない場所に飛び込むのは力が要るから。

「・・・そうだな」

認めることは、別れること。

わかってる。

「・・・好きな奴でもできた?」

それでこんなことを言い出したのなら納得がいく。

公佳は予想外なことを問われた顔をして、それから言った。

「わかんない」

「わかんないのかよ」

「・・・うん」

曖昧な答え。はぐらかされているのかとも思ったけど、

きっと本当にわからないのだろうな。

「あ〜あっ。とうとうこの日が来たか」

わかっているけどわかりたくなくて、どう反応していいのかわからない。

「捨てられて、俺はどうすればいいんだよ」

それでも少しすっきりしたのも本心だ。

「三波 由紀。あの子がいるじゃん。あの子、いい子だよ」

まさか、彼女から他の女を薦められるとは。

「あの子は強いから。だから遼哉のこと任せられる」

「子供かよ。俺は」

苦笑する。

オレの目には弱いところがあるように見える由紀は、公佳からみれば強いらしい。

女の方が見抜くのは上手いのかもしれない。

「ごめんね。助けてあげられなくて」

何を言い出すのか。

「お互い様だろ」

「私は遼哉に助けてもらいたいだなんて思ってなかったもん」

「俺だって思ってねーよ」

求めてはいたけれど、助けてもらおうなんて思ってはなかった。

「そっか」

「そーだよ」

それだけだよ。

「でも、オレは今まで付き合った中で公佳が一番だったよ」

今まで考えたことは無かったけど。

それしか言葉は見つからない。

それが正しい表現だと思った。



部屋の中で、由紀は無表情で聞いている。

「オレ、今までいろんな子に「好きだ」って言ってきたけど

公佳には1度も言ったことなかった」

「なんで私にそんなこと言うの?私を何だと思ってんのよ!」

ほんとに、なんだと思っているのだろう。

思って、出た答えは・・・、

「好きだ」

「それって」

「これは今までのとはちがう」

全然ちがう。

公佳には一度も言ったことは無いけれど、それは

これから先いくらチャンスが訪れようとも言わないし、出てこない言葉だ。

ましてや、今まで気楽に言えていたような気持ちのない感情でもない。

伝わったのか、すごく悔しそうな顔を由紀はした。

ここはかわいいと思う。

作ってる顔じゃない、心が出てきてしまった顔。

「知ってる?私、負けず嫌いなのよ」

「知ってるよ」

「・・・だから、あんな、工藤公佳になんて負けないわ」

公佳を殺しかねない勢いで挑むように言われた。

なんだか、本性を見た気がする。

が、これから上手くやっていける予感も確かに、した。

波乱はたくさん起こりそうだけれど。

それでこそ、何かがあるかもしれないじゃないか。


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