森下は変わったと思う。
どこが?と問われてもはっきりと答えられないが、
そう思う。
・・・今日もまた、か。
今日もまた、森下こと森下恭介は早々に帰宅するらしい。
3ヶ月位前からだろうか?始めは気にもとめなかったけれど。
「・・・新妻の元へ帰りを急ぐ新婚さんみたいだぞ」
帰りの用意を始めた森下にぼそりと言った。
半分作為で半分無作為で。
「は?」
鞄を閉めようとしていた手が一瞬止まり、こちらを見た。
「お前だよ。お前」
言われた方には意味は伝わらなかったらしい。
「だから、ここ最近のお前の態度だよ。仕事が終わったらそそくさと帰るじゃないか」
前は仕事が終わってもだらだらと居座って、よく飲みに出かけたのに。
・・・そういやここのところこいつと行ってないな。
そんな事を思っている間に言われた方はゆっくりと理解していったらしい。
しばらく間があいた後、不思議そうに言いやがった。
「・・・そんな風に見えるのか?」
自覚なしか。
「で、実際どうなんだ?」
「何が?」
とぼけやがって。
「彼女だよ。いるんだろ?」
わざとからかい口調で言う。
「・・・いないよ」
なんだよ。その間は。あやしい。
「あやしいな」
さらに問いただしてみるけれど、森下は表情を変える事無く言う。
「いない・・・って」
なんだか現実味のある発言に感じた。重みがある。
嘘では、なさそうだ。
と、妙に納得してしまった。
「なあ、今夜あたりどうだ?久々に飲みに行かねえ?」
「今日か・・・?悪い。都合悪い」
・・・その都合ってなんだよ。と思いつつ。
「・・・んじゃあ、明日は?」
それについては飲んでいる時に吐かせようと引き下がる。
「わかったよ。明日な」
苦笑交じりで答えられた。
なんだってこんなに俺が引き下がっているんだか。
「じゃ、今日は先帰らせてもらうわ」
改めて、というように鞄を抱えなおし、言う。
「あー。じゃあな。おつかれさん」
ふー。っと軽くため息をついて仕事に戻った時、後ろの方から話し声が聞こえてきた。
「やっぱりそう思う?」
「絶対にそうよー」
「ねえ、ちょっと、坂本くん」
呼ばれた方を向いてみれば、噂好きの女共が興味津々でこちらを向いていた。
「何ですか?」
「ねえ、森下くんって彼女いるの?」
なるほどね。さっきからこれを話し合っていたわけか。
「彼女ねえ。俺も今気になって聞いてみたところなんですよ」
そういうと彼女達の顔が輝いた。
そんなに気になる事か?
「で、どうだったの?」
「いないって。はぐらかされました」
「嘘だあ」
・・・何を根拠に?
「やっぱり、いるって思います?」
こういう検索は、女共に任せるに限る。
「いるでしょ。あれは!」
だから、何を根拠に?
その思いが顔にでたらしい。
聞きもしないのにつらつらとその根拠を並び立ててくれる。
「雰囲気が変わったわよね〜」
「身だしなみもきちんとしてきたし」
「健康そう!」
「前より優しくなった」
「それに、とっつきやすくなった」
「それと、もともと見目のいい方だったけど、さらにちょっとかっこよくなったかな」
・・・・・・・・・・・1人で株上げやがって。
俺の正直な感想だ。
「やっぱりその背景には女でしょう」
断言してるよ。
「坂本くん、もっと聞き出せないの?」
もはや乾いた笑いしか出てこない。
「努力、してみます」
「よろしい。んじゃ、何かわかったら報告してねー」
そう言って詮索好きな女達は俺の前から明るく去っていった。
そして俺は後日、酔ったついでに森下の家に入り込んだにも関わらず、
何も収穫がなかったことを期待の眼差しを向けてくる女共に報告することになる。
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