【変化】  side:高嶋 夕菜

 

 

公佳は変わった。

どこがと聞かれても困るけれど。

公佳は変わったと思う。
 

放課後、数人でかたまって雑談を交わすのが日課となっている。

毎日話す内容はそんなに変わらないのに。

飽きずに私達はよくしゃべる。

ふと、会話の途中で教室のドアに目を向けると、奴がいた。

「公佳。遼哉、来てるよ」

そう、公佳に教える。

松崎 遼哉。公佳の彼氏。付き合ってもう一年半になるだろうか。

公佳に気付くと遼哉は慣れた様子でこっちに近づいてきた。

「公佳。帰ろうぜ」

これももう日課。

公佳は遼哉が来るまで私達と話し、そして二人で帰る。

遼哉の言葉に頷いて、公佳は立ち去る用意をする。

「じゃあ、先帰るね」

「バイバーイ」

彼氏の登場に喜ぶでもなく、どこか大人っぽい表情と仕草で公佳は去っていった。

「あの二人も、なんだかんだで長いよね」

二人を見送りながら、ぽつりとミキが言った。

「あの万年浮気男に公佳もよく付き合うよ」

呆れたような口調に、皆も便乗する。

「よくもまあ、次々と相手が見つかるもんだ」

「あいつ、顔だけはいいからね」

言いたい放題。言われても仕方が無い奴なんだけど。

「ねえねえ。今の相手、誰だか知ってる?」

沙紀の言葉に数人が反応した。

「誰?」

C組の、三波 由紀」

「マジ!?趣味わるい・・・」

三波 由紀といえば、遼哉と同じくらい男関係に華やかで有名だ。

女子の間では「かわいこぶりっ子」で有名。

「それって、きみちゃん知ってるの?」

「知ってるよ。だって、三波 由紀が直接言ってきたんだもん」

私もその場にいたから知ってる。

いまどきほんとにあるのか?と疑いたくなるようなシチュエーションだった。

いきなり公佳の目の前に立ちふさがり、彼女は言った。

「いつになったら遼哉と別れんの?」

嫌味ったらしい顔つきだった。まるで自分のものだと言わんばかりで。

言われた公佳は表情を変える事は無かった。

「さあ。私はいつでもいけど。向こうがそう言わないから」

どこか自信のありそうな発言とは反対に、まるで他人事みたいだった。

この手の相手に慣れているのか、遼哉が離れていかないと思っているのか、

何も思っていないのか、私にはわからなかった。

あからさまにムッとしている三波 由紀を他所に、公佳はさっさとその場から離れた。 

その去り際に、公佳は言った。

「頑張ってね。って?言ったの?きみちゃんが?」

「そう」

「うわっ。さすが公佳」

確かに相手を煽っているようにしか聞こえない。

けれど、私はそう言った後の一瞬の公佳の顔を見てしまったから。

だから、公佳は相手を怒らせようとか、蔑んでとか、そうではなく、

本心で言ったのではないかと思った。

公佳はその時、本当に辛そうに、相手を哀れむような表情をしていたから。

「でも、ほんとに何であんな奴と・・・」

「慰めあってるだけだって」

ぼそりと私が言う。

「え?」

「公佳が言ってた。二人とも求めてるものが同じだから。

だから一緒に居るんだって」

自分のことに精一杯で、相手に干渉しない。

それでいて求めるものが同じだから。

そう、公佳は私に言った。

「そっか。公佳の家も複雑だからね」

「遼哉のところも?」

「らしいよー。詳しくは聞いてないけど」

「にしても、最近公佳、変わってきたと思わない?」

「えー。やっぱり?私もそう思ってた」

その一言にみんなも同意する。

そう。公佳は最近変わった。

私達の中で一番大人っぽく、笑っていてもどこか冷静な部分を持っていた公佳は

時折安心しきったように、無邪気に笑うようになった。

それだけじゃない。雰囲気自体がやわらかく、無理がなくなってきた。

「もしかして、新しい相手が出来たとか?」

軽く冗談めかして言ったミキの言葉にどきっとした。

・・・それは、あの人のせいなのかもしれない。

と、口には出さず一人心の中で思い返す。

あの、大人の男の人。公佳と並んで歩いていた人。

見たときは驚いた。

誰?ということにではなく、公佳の雰囲気に。

けれど、すんなりと納得した。

あまりにも二人が自然だったから。

自然すぎて踏み込めなかった位に。

公佳が年相応に見えた。それは私にとっては驚きだった。

そして、壊したくないと思ったから誰にも言えなかった。

口に出した途端にはじけて、消えてしまいそうな空気があったから。

だけれど、だからこそ、大切にしたいと思った。

あの、雨の日にみた二人の事は。

だから、私は見た事を誰にも、本人にさえも未だに言わずにいる。




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