【春】  side:公佳

 

 
「あ」
恭介の家へ向かう途中、ふと目を向けたらそれはあった。
だんだんと、日が長くなってきたと思ってはいたけど。
まだ、いるんだ。
と思うと同時に、胸が痛んだ。
自分で決めた事なのに。

 

「何か飲みもん買いに行ってくるけど何かいるかー?」
手元の雑誌を眺めていたら声が掛った。
ゆっくりと頭を上げ、思案する。
暇。
そして少しの気持ち。
「私も行くよ」
それは気まぐれ。

「いらっしゃいませー」
店員の声はもう機械と同じ。
耳に入るだけで言葉に意味は無いものになってる。
着いて早々無言で店内へ散り、自然、足は雑誌コーナーへ向かう。

目に付いたものをパラパラ捲り、そのまま手に持ち歩き出す。
「何買うの?」
言うと同時に雑誌は恭介の持つカゴの中へ吸い込まれてゆく。
一瞬こちらを見て
「冷蔵庫の中身」
気の無い返事。
「ふぅん」
「あ。コレ食べようよ」
差し出したのは焼きプリン。
見たらたまたまあっただけ。
「好きだなあ」
恭介が苦笑しながらそう言った。
そうだったかな?
好きだったかな?
そうだったのかも知れない。
「ま、ね。恭介だって、キライじゃあないでしょ?」
「まあ、ね」
少し、笑った。

手には何も持たず、気分のまま恭介と歩く。
「ねぇ、ちょっと遠回りして行こうよ」

「って、こっちか?」
「うん」
向かうは遠回りと言うほどでもない道。
少しだけ迂回するだけの道。
歩いて数歩、
「そういえば」
「あそこに」
二人同時に言葉が口に付いた。
「・・・」
間も同時。
「気付いてたのか」
「そっちこそ」
何で口にしてしまったんだろう。
そう思った。
差し示したのは、ガードレールに隠れて生きるつくしの姿。

つくし、つくし、つくしんぼう
春なんて連れて来ないでよ。
未練がましく、自分勝手に念じてみる。
自分で決めた事なのに。
恨みがましく見つめてみる。
それでも足は前に出る。
目線だけつくしを追って足は歩き続ける。

 
春が来た。

来てしまった。
 

 

 

 

 

 

 

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