【沈黙】  side:恭介

 

聞こえてくる音は、俺の打つキーボードの音と

公佳の方からたまに聞こえてくる雑誌をめくる音。

実は二人で居てもそれほど会話はしない。

ただ同じ空間にいて、それぞれ自分のしたいことをする。

間にたまに会話を挟む程度。

しかし、その無言の沈黙が苦にならないから不思議だ。

むしろ安心する。

沈黙が安心するだなんて、そんなこと思ったことがあっただろうか。

今まで、会社ではもちろん、それなりに付き合ってきた女達を思い返しても

しみじみと感じたことはなかった。

・・・なんだかこんなこと考えてるのって恥かしくないか?俺。

まあいいけど。

そういや俺、前は仕事を家に持ち帰る事を嫌ってたな。

家に持ち帰ってもだらけるだけで進みもしなかった。

だけど今は、持ち帰るようになった。

その方が捗るから。

公佳が適度な監視役ってところか?

それともどこかで落ち着けてるんだろうか?

よくはわからないけど。

あ!

余計なことを考えてるからミスっちまった。

一息、入れるか。

意識を画面から放したところで、横に立つ公佳の存在に気が付いた。

「ん」

ずいと目の前に出されたコーヒーを受け取る。

「お。サンキュー」

ナイスタイミング。

一口飲んで、落ち着いて。

さて、仕事に戻るか。

そして思う。

会話なんてこんなもんだ。

だけど、不思議と寂しい気はしない。

話すことも必要だけど、沈黙も必要なのではないだろうか。

そんなことを少しだけ頭の端で思って、仕事に戻る。



そしてまた、苦になることの無い沈黙が訪れる。


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