【雨】  side:恭介

 

「げっ。雨」

会社を出る時は降っていなかったのに。

さて、どうするか。

駅に着いたら雨が滝の様に降っていた。

そうだ。公佳がいるじゃないか。

こんな時使わなくていつ使うって言うんだ。

別に使うものではない。という事は綺麗さっぱり忘れる事にする。

忘れる事にして、携帯から自宅に電話をかける。

・・・出ない。

何やってるんだよ。

そう思った時、

「お兄さん、こんな雨の中どこにお電話?」

うをっ。肩に重みが。

なんだ?

「公佳!?」

人の肩にぶら下がってくるな!

「なんでこんな所にいるんだ?」

傘さして。しかも、俺の傘。

「なんでって、外を見たら雨が降っていたので、買い物にでも繰り出そうかな〜と」

・・・雨の中?

「で、買ったものは?」

公佳の手には紙袋のひとつさえない。

「え?」

「買い物、行ってきたんだろ?」

わざと突っ込んでやる。

「きょ、今日はいいものがなかったのよ」

「ふーん。そう」

・・・つまり、さっきのセリフは、

訳:外を見たら雨が降っていたので恭介を迎えにいこうかな〜と

ってところか?

だって、こんな雨の中わざわざ来ないだろ。買い物なんて。

「な、なによ」

お。赤くなった。おもしれー。めったに無いことだ。

「サンキュー」

「は?何お礼いってんの?」

「いやぁ。別に」

やべ。笑っちまう。

「・・・帰ろっ」

「おー」

同意して、公佳の持っている傘を黙って取り上げて、広げる。

雨を弾いて、パンっと傘が開く。

そして、同じ傘に入って帰路へとつく。

しばらくして、公佳が口を開いた。元の調子を取り戻したらしい。

「そうだ。今日夕飯作ってないんだ。たまにはお弁当でも買って帰ろう」

「いいねー」

弁当買って、家で二人して食べて。

なんだかいいと思った。

こんな雨の日も悪くない。


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