「秋だね」
「そうか?冬だろ」
空は高く、虫の声が止むことなく聞こえる。
雨が降って、突然冬がきたかのように急に寒くなった。
実際の冬はもっと容赦無く冷たいのだけれど、
今まで暖かい日差しの元にいた身としては、痛烈に感じてしまう。
ので、冬だと知覚する。
「お月見をしよう」
たまに通る車の音。
その音に釣られたのか、公佳が窓の外を見て言った。
「そんな季節じゃないだろ」
「じゃあ、月光浴だ」
「…月光浴〜?」
「いい響きでしょ?」
カラカラと、窓が開く。
ぐいと外に引っ張られ、外気に触れる。
虫の鳴く音。
風のそよぐ声。
時折聞こえる近くを歩く人の足音。
輝く月。
ちりばめられた月灯り。
照らされて走る猫。
人々が生活する家。
人の作った明かり。
それらが、聞こえて、そして見えた。
凛とした空気が顔に当たり、浸透してゆく。
隣には公佳。
うっすらと白い息をはいて。
1年前は公佳という一つの個体が存在することすら知らなかった。
半年も経っていない。
生活の基準はほとんど何も変わってない。
会社に通うのも、飯を食うのも、テレビを見ながら酒を飲むのも。
淡々と、何も目的を持たずに日々を過ごす事も。
ただ、曇った空の下。
月見の日でもない夜に。
ベランダとも呼べないベランダで。
偶然あった団子を並べて。
月を見上げるなんてことは、
公佳がいなければ確実にしない事ではある。
公佳と二人。
何を話すでもなく、並んで。
空を見上げる俺が、今、確実に存在する。
「寒っ」
「止め、止め!」
「ホント、寒いの苦手だよねー」
公佳の笑い声と共に、すぐに窓は閉められた。
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