もしも生まれてから死んでしまうまで1時間だけだったら。
朝焼けや、夕暮や、月の輝く星空を見ることができなくて。
1日の、自然の、美しさを知ることができないんだ。

きっと、そんな世界の中で、間違えて1日生きることができた子がいたならば、
他のコにいくら朝の、夜の美しさを訴えても信じてもらえない。
世界が真っ暗になること、世界が明るく輝くことの不思議さ、美しさを。

きっと、そんな世界の中で、間違えて1年生きることができた子がいたならば、
他のコにいくら春の、夏の、秋の、冬の美しさを訴えても信じてもらえない。
命の息吹が聞こえることを、肌の焼け付くような日の光を、
色の移り変わる美しさを、凛とした空気の冷たさを。きっと。

真夏日の中、短い命を最大限に震わせて鳴く蝉を見て、
祐はふとそんな事を考えた。