【決意】  side:恭介

 

 

公佳には公佳なりの法則がある。


それが飛び出すのはいつも唐突だ。


 

チャイムが鳴った。


眠りに落ちかけていた時だった。


一瞬のうちにはなんの音だか理解できずに、ああ、玄関のチャイムか。と気づく。



「はぁーいよ」



寝ぼけたまま開いたドアの外には公佳が一人。



鍵もあるだろうに。

何よりも、ドアに鍵はかかっていなかった。

「なに、やってんだ…?入れよ」


公佳は動かない。



ドアを開けたまま入り口にスペースを空けてもまだ動かない。



「きみ…か?」

「恭介、私、高校3年生になった」


作ったようなさりげなさで、少し思いつめたような顔をして



唐突に公佳が言った。



先になんと続かせればいいのか分からなくて、一言。



「…おめでとう」



うん。と少し頷いて



「だから、明日からもう来ないね」



「…は?」



「もう、ここには来ない」



きっぱりと、そう言った。



「なんで?」



「春に…、高校3年生になったから」



答えになっていない。



「だから、なんで?」



「決めたから」



だってしょうがないじゃん。とでも言うように、言う。

「は?」ともう一度声が出そうになったのを押さえ、一拍。


「…そう、か」



「うん」



さっぱりわからないけれど、頷いた。



どうせ何を言ったってこいつは覆しなどしないのだから。



きっと。



ふと、彼氏ともこうして別れたのかと思う。



自分の中で完結して。



自分を固めて。



けれど、言われた方は結局それを許してしまうのだ。



何故か、そんな気分になってしまうのだ。



「…そうか」



俺が頷いたのを見届けて、



「んじゃ、おじゃまします」



そういって部屋の中に入ってきた。



なにがなんだかわからない。



上手く理解が出来なくて、身体はまだ眠っていて、



一拍も二拍も三拍も遅れて公佳の後を追う。



公佳は家中を小さな鞄を携え歩き回り、思いついたかのように物を鞄に入れて歩く。



そうしてそのまま小さな荷物を抱えて部屋を出て行こうとする。



相変わらず良く分からないまま、その様子を眺めていた。




「また、来てもいい?」


玄関の扉を開きかけ、公佳が聞いてきた。



それこそ何を聞いているんだろうか。



それこそ尋ねるべき事ではない。



「いいに、決まってるだろ」

当たり前だ。


その問いは矛盾。けれどこれは本心なのだろう。



だから強く頷く。

「ありがと」


一瞬こちらを向き、淡い微笑みを残し、



パタン。とドアが閉まった。



公佳はドアの向こう側だ。



その何も無いドアを見て思う。



たぶん、これから公佳はここには来ない。



実感はないのに、何故かそんな気がした。


 

身体はまだ、眠ったままだ。

 

 


 
 

 

 

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