一瞬、何が起きたのかわからなかった。
次の瞬間、カチンときた。
今の出来事に意味などないとわかったから。
映画を見てた。
恭介と二人で。
なんの予定もない休日で。
久々に、映画に浸ろう、見まくってやろうといきまいて。
アクション映画を3本見た後に、単調な映画を。
さすがに疲れてぼうっと画面を見てた。
見るというよりは、流してた。
映画の中で、主人公がキスをした。
同時に視界が、ふさがった。
ゆっくりと目の前の顔が遠ざかる。
朝からずっと映画を見ていて、現実と非現実のと区別がつかなかった。
あの、めったに読みもしない堅苦しい本の世界に浸り、
急に現実に戻されて自分の言葉を忘れてしまったような、そんな、感覚。
現実と作り物の世界がごっちゃになって、
私はまるで架空の世界に取り残された様につぶやいた。
「なんで?」
「なんでだろう」
恭介も、架空の世界に取り残された様につぶやいた。
「なんとなく」
恭介だって、きっと架空に引きずられただけなんだ。
わかってる。
・・・でも。
「なんで?」
されることが嫌なんじゃない。
ただ、この、今まで作ってきた均衡を、そんな事で崩してほしくはなかったから。
そんな簡単な事じゃないから。
架空だからって、意識があるときでは自覚した時では、それは現実になってしまう。
境界線が消えちゃう。
覚悟もないまま、消えちゃう。
気持ちがないならないままで、いい。一緒に寝ようがかまわない。
気持ちがあるならそれはそれでかまわない。
でも、今のは、なんの意味も覚悟もない。
ただ均衡をくずしただけ。
後にも先にも進めないだけ。
それなのに、次の瞬間にはすっかり現実から抜け出した顔でいう。
「もう、しないよ」
まるで、夢は夢、現実は現実とでも言うように。
「なんで?」
なんでそんなに簡単に現実の世界に帰れるの?
なら、なんで、こんなことしたのよ。
「・・・」
「するなら、もっとしてよ。主人公みたいにかっさらってよ!」
「できるわけ、ないだろ」
それは、ゆるぎない恭介の決心。
私は、まだ、架空の世界から抜け出せていない。
現実と、架空がゆれる。
その間に、エンドロールが流れる。やがてそれも終わる。
動きが止まる。動き出す。
現実が、しっかりと形を取り戻した。
「・・・終わったね」
「・・・終わったな」
しっかりと画面が真っ黒になるまで眺めてから息を吐き出すと共に言う。
もう、すっかり現実だ。
「さて、・・・次、どうする?」
「もーいい。なんか食おう」
「そだね。んじゃ、お茶でも入れよっか」
「おう」
ここはぬるま湯。
居心地が良くて、良すぎて、境目がわからなくなる。
あるはずの境界線が見えなくなる。
現実を取り戻して、日常が何事もなく動き出した時、私は思った。
そして、決めた。
もう揺るがない。
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