【文通】  side:Letter

 

 

 

DAYS

 

外から見たら部屋の電気が消えていた。

今日は来るって言ってなかったか?

「ただいま」

誰も居ないのに言うのはどうも気まずい。

明かりをつけて足元に目をやる。

ん?靴がある。

やっぱり来てるんじゃないか。

「公佳ぁ?」

居間にはいないのか?真っ暗だ。

部屋の電気をつける。

と、リビングの机の上にメモ帳が置いてあったのに気が付いた。

 

恭介へ


お仕事お疲れ様〜。明日学校早いから先に寝かせてもらうね。

夕飯は作っておいたから、温めて食べてね。

おやすみ。

 

         公佳

                       

メモの隣には夕飯があった。

メモに従い、温めて、一人で、食べた。

 

 

 

 

 

DAYS

 

朝、起きたら公佳の姿はすでになかった。

もう学校か。

えっと、今日は。

思い出す。

・・・そうだ。

一応公佳に伝えておいた方がいいんだろう。

さて、どうやって伝えようか。

迷って、昨日目にしたメモ用紙を使う事にして一言書いた。

これでいいだろう。

 


今日、飲んでくるから遅くなる。夕飯いらない。

    恭介

 

 

学校が終わって、

いつものように恭介の家に勝手に入り込み、

机の上を見てみたらメモ帳があった。

私が昨日書いて置いたもの。

それが一枚切り取られ、恭介からのメッセージが。

「・・・簡潔な文章」

ちょっと寂しい。

恭介らしいけどね。

で、今日は恭介飲んで来るのか・・・。

どうしようかなあ。

恭介いないんじゃあ来たってつまらないし。

家には帰りたくないし。

そだ。

                       

Dear:恭介

お帰りなさい。
メモ見ました。

飲んでくるなら今日は帰るね。

彼氏の家にでも泊まってくる。

明後日は来るね。

 

PS.あんま飲みすぎんなよ!!

 

From:公佳

 

 

「おじゃましまーす」

「おう。上がれ上がれ」

「ほんとに女っ気ないんだな〜。この部屋」

「うるせーよ」

一緒に飲みに行った坂本がどうも「付き合ってる奴かいるんだろ」としつこいので

どうにでもなれ!と思いつつ家につれてきた。

公佳が居たなら親戚ということにしようかと散々考えながら扉を開くと

公佳の姿は無かった。

内心ほっとしつつ、

どうしたのだろう?と思う。

「なあ、洗面所、借りてもいいか?」

「勝手に使え」

そのまま洗面所へ行く坂本は放って置いてリビングへ。

そして、メモ帳を見つけた。

・・・・家に帰れよ。

どういう家庭なのかは知らないが。

まあ、公佳には公佳なりの考えがあるんだろう。

坂本に見つかればまたいろいろうるさそうなのでメモを一枚ちぎって

ごみ箱の中へほうり込む。

「使い方わかるかー?」

あまりにも坂本が洗面所から出てこないので声を掛けてやると、

「お前、アレは自分で買ったのか?」

と返事が返ってきた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

何かあっただろうか?

急に不安になる。

公佳のものだろうか?

何か都合の悪いものがあったか必死に考え、洗面所へ向かった。

そして、坂本の言うところの「アレ」をみた。

あ・・・。

坂本が示した先には浴槽上のクリアポスター。

男一人住まいにこのいかにもかわいらしいポスターはさぞ異様に写るだろう。

大の男がいそいそとこれを壁に貼り付ける様はどう考えても気持ちが悪い。

しかし、弁解する理由も見つからない。思いつかない。

そのまま、口から言葉がこぼれ出た。

「・・・・・・安かったんだよ。・・・セットで」

自分のコメントに呆れつつ、

おもちゃの魚を処分しておいて良かったと、心から思った。

 

 

 

 

 

DAYS

 

「ただいまー」

そう言って、鍵を開けて部屋に入る。

いつからかこの家に足を踏み入れる時は

「おじゃまします」から「ただいま」に変わっていた。

いつからだろう?

もう、記憶にはない。

それにしても、部屋は真っ暗だ。

今日も飲み?それとも仕事?

電気をつける。

そして、今でももうずっと前からの習慣だったかのように

机の上のメモ帳を見た。

あった。

えっと・・・。

 

公佳へ

お帰り。悪いけど明日仕事で早いから先に寝かしてもらうわ。

夕飯作っておいたから食え。

 

なんだ。もう寝たのか。

せっかく来たのに意味ないじゃん。

少し寂しさを感じる。

・・・でも、家の中に人が居ると言うだけで落ち着ける。

さてと、私も眠るとしますか。

いつものように、勝手に用意して、勝手に決めた定位置で、眠りについた。

 

 

 

 

 

DAYS

 

会社から帰宅すると、部屋の電気はついていた。

なんだか久しぶりのことのような気がした。

今朝も公佳と顔を合わす事無く出かけたから、ちょうど4日会っていなかったことになる。

もう4日。されど、たった4日・・・。

玄関のドアを開ける。

公佳がいる。

「あ。・・・お帰り」

「・・・ただいま」

なんでもない、いつもの事が妙に気まずい。

いつもと違う方法で相手と会話をしていたせいだろうか。

手紙の後はお互い、少し照れる。

 


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